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情報の真偽は自己責任☆
2008年03月13日 (木)
【文章】銃を持った電波









使い捨てられた工場。歪に折れ曲がった大小の破片が散らばるフロア。
錆朽ち果てた屋根の合間から差す仄かな月光。
そこにあるのは激しき交錯。命を懸けた価値観の淘汰。
生と死をかけた二つの影が揉み合いの末、一つの形となる。

床に倒れ伏された少年の顔には黒眼鏡。
それを踏みつけ、月光に照らされる少女の髪はツインテール。
彼女の手には、周囲の闇より一層黒く重い自己主張を放つ銃把が一つ。

その銃口は、黒眼鏡の中心をぴたっと捕らえて離さない。



「――これで終わりよ」

やっと捕まえた。これで決着だ。引き金を引けば終わる。この馬鹿馬鹿しい遊びが終わる。
このキョドり気味な顔を見ずにすむ。さっさとやって終わりにしよう。

「――よく狙え。その距離で外すなよ」

「はっ、何を言ってんの? この私を誰だと思ってる。外すわけがない」

「いや、どうかな。外すんじゃないか。そうだろ?」

こいつは何を言ってるんだ。この距離で。この位置で。
胸を踏みつけて逃げることなどできはしないのに何を言ってんの。頭おかしいんじゃないの。
終わらせる。終わらせてやる――

「いいや。外すね。絶対外す」

「っ、何を根拠に!!」

悟った顔。達観した視線。結果は視えているとばかりの自信。
ただの強がりだ。ただのハッタリだ。いつも通りの死に際の戯言だ。耳を貸すな。騙されるな。

「いや、騙してるのは僕じゃない。……キミのほうだろ?」

「なっ――」

「ほらっ、気づいてないのか? ちゃんと自分の腕を見てるか? ちゃんと俺を狙ってるか?」

「うるさい! 私はちゃんと狙って!」

「――じゃあ。なんでキミの手は震えてるんだ?」

思わず息を呑んだ。自分の手をみるなんて愚は冒さない。標的から目は離さない。
私はプロだ。私はこの仕事を何年もやってる。感覚は絶対だ。コイツを絶対に撃ち殺せる。

「へぇ。大層な自信だな。何人も殺してるってのは本当かもな。――視れば分かる」

「何を言って――」

「視たままを言ってるだけだ。そのままの感想を言ってるだけだ。キミを視た感想を」

こいつはさっきから何を言ってるんだ。わけがわからない。私を見た? 何を?
その達観した眼はなんだ。さっきから私の何を見てる? 何を知っている。まさか――

「いや、何も知らないよ。ただ視てるだけだ。“キミを視ている”」

「まさか、お前――」

心が読めてる……? ――いや、そんなワケは……

「そう。気づいてるだろ? 分かってるんだろ? 知ってるんだろ? 自分が何をしてきたか」

――冷静になれ。私はプロだ。気にするな。否定しろ。さっさと終わらせろ。

「何を根拠にそんな戯言を!」

「それはお前が一番分かってるだろ」

「なっ……」

断定の言葉。余談を許さない決定。有無を言わせない視線。

「気づいてるんだろ? 気づかないフリしてるだけだろ」

「違う! 私はっ!」

こいつは何を知った風に言ってるんだ。私の何を知った気になってんだよ。何が言いたいんだよ!
口元が動く。前までのキョドった口じゃない。嘲笑めいた唇が動く。
そして、言葉を紡ぐ。


「決められた規則を守って、殺してるだけだ」


「ちがっ、私は……!」

――言われたくない言葉が紡がれる。

「そう。自分は殺りたくないのに規則を守るために殺っただけだ。
 お前は正しいよ。お前は間違ってない。お前は悪くない。
 言われた通りのことをやってるだけだもんな。“規則”通りに」

「私は――」

――聞きたくない言葉が紡がれる。

「お前は悪くないよ。犠牲者だ。殺したいから殺したんじゃない。
 規則を守っただけだ。規則が悪いんだよな」

「私は――」

――知りたくない言葉が紡がれる。

「ほら。どうした? 震えてるぜ? 悪くないのに震えてるぜ? 瞳が揺れてるぜ?」

「私は――!」
喋るな。言うな。これ以上はやめろ。考えるな。考えたくない。だから、終わらせ――

「そうやって規則のせいに。いや、人のせいにしてればいいもんな。
 自分は悪くないって逃げてればいいもんな。人を殺してるのは規則じゃなくってお前なのに」

「黙れ!」
視界がぶれる。意識がぶれる。殺らないと、殺らないと。黙らせないと――

「お前気づいてんだろ。自分が人殺しだって」

「うるさい!」
否定しろ。拒絶しろ。これ以上言わせるな。踏みつけた足に力を入れた。
だが、表情一つ変えず、いやますます嘲り笑って口が動く。

「私は人は殺してない! 規則で決まったモノを殺してるだけだ!
 お前は人じゃない。“アレ”も人じゃない。だから、私は人殺しじゃ――」

「いや。お前は気づいてる。自分が何をやってるか気づいてる。
 自分の過ちに気づいてる。何が悪いか全て分かってる」

うるさい。うるさい。やめてくれ。もうやめて――


終わらせないと。終わらさないと――

「ホントはお前。人を殺したくないだろ?」

あぁ。そうだよ。人は殺したくない。だけど――

「人でないモノなんて別に殺しても――」

「ホントにそう思ってるのか? “アレ”は人じゃないのか?」

「そうよ! “アレ”は――」

“アレ”は何だ……。本当に人じゃないのか……? 本当に私はそう思ってるのか……。
そう思って殺してきた。だけど、本当にそうなのか……

「だったら、お前も十分“アレ”だな。
 こうやって人を殺してなんとも思わないんだから」

「――違う、私はっ!」
そんなわけない。一緒にされたくない。あんなものと同じなんてイヤだ。私は違う。

「違わない。言い訳だ。自分を偽ってるだけだ」

嘘だ!嘘に決まってる!“アレ”は人間じゃない。“アレ”は狂ってる存在だ。私とは違う!
そんな私の気持ちとはお構いなしに、こいつは嘲りながら続けてきた。

「それに、お前の顔、“アレ”みたいにぐしゃぐしゃになってんだぜ?」

そんなはずはない。私は人間だ。私はプロだ。“アレ”を殺さないといけないプロなんだ。
“アレ”を殺すことが当たり前だ。“アレ”は殺されることが当たり前だ。
なのに――
それなのに――。
そのはずなのに――
こいつの眼に映る私の顔は……




「――――ぁ―――あぁ……ぁ―――――――」




――こんなの嘘だ。戯言だ。否定しろ。全て否定しろ。私がやってきたことは正しいことだ。
耳を貸すな。殺せ。ぶちまけて黙らせろ。いつも通りに頭を爆ぜろ。
コイツの顔を吹き飛ばせ。達観した視線を眼球ごと消し飛ばせ。
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。殺して自分を正当化しろ。



「――私は“アレ”でも、人殺しなんかでもない!」


「あぁ、よろしく頼むぜ“アレ”な人殺し」



――銃声。

私の耳はいつも聞き慣れてるそれを聞いた。




-------------------------

――――――

――――

――

『――ってカンジの都市伝説だょ』と、カルピスのドリンクバーに口をつけるセミロング。

『なるほど、なるほど』と頷きながらにチョコケーキを食べてるショートヘア。

「で、その話のオチって何なの? その人、死んだの?」

「さぁ。どうだろ。私が知ってるのはそれだけだょ。
 『銃を持った電波』が殺しにやってくるって噂については」

「……そっか。まぁ、死んでるよね。きっと死んでる。
 その状況で殺されないって言ったら、わざと外すしかない。
 人を殺さない人殺しなんてシリ/めつれつだし」

『でも、人殺しじゃなかったら、どうなんだろぅ?』って、首をかしげるセミロング。
『それはそん時だよ。さぁて、私の番だな』ってノリノリのショートヘア。

『えっと。ある町であった話なんだけど――』と言ったところで、ショートヘアの言葉が遮られる。

「うわっ、ちょっ!? お前何やってんだよ!!」

「何って、ジュース注いでるだけでしょ?」

「おまっ、コレはドリンクバー頼んだ人だけが飲めるんだ!
 つまり、僕が飲める! でも、そっちは頼んでないだろ!
 これだから非常識なヤツは……」

「なっ!? 私が非常識だっての!?
 あんたが知ってる常識程度で私の常識語ってんじゃないわ!」

『仕方ないな……って財布がない! 服に穴開いてるし!?』って、慌てる少年。
『どっちが非常識(バカ)なんだか』って、肩をすくめる女のコ。
『はぁ……若いっていいね』って、生暖かい目をするショートヘア。
『ぃゃ、なんかこっちにお願いするように見てるょ……』って、視線に気づくセミロング。

忙しい時間帯を外した店内にいる客は2組。
財布を忘れた1組が、もう一方の1組を頼る光景。

ショートヘアは、しぶしぶ、お金を貸して。
黒眼鏡の少年は、ぺこぺこ、申し訳なさそうにお金を借りて。
ツインテールの女のコは、ぷんぷん、相変わらずむすっとしてて。
セミロングは、まぁまぁと、なだめてる。

そんなよくあるファミレスの助け合いの風景。


――【文章】銃を持った電波(了)

 





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