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2005年11月09日 (水)
薄暗いコンクリート張りで味気ない廊下、けして広くない幅のそこに白いローブの人影が2人立っている。

剥き出しの電球に照らされた彼らの手には鈍く光る長い棒が握られて先には幾つもの棘がついている。

いわゆる、鈍器というやつか手軽なもので言えば釘バットの金属版みたいなものだ。



「お帰りなさいませ教祖様!」



白いローブ達が姿勢を正す。



「おお、神の子達よ。今日も勤めご苦労」



教祖は無駄に慇懃に振舞い彼らに声をかけると、白いローブ達は教祖に道を開く。

その先には、鉄で出来た頑丈な扉。いくつもの鍵穴という穴。鎖や南京錠、複合式ロックやで何十にもロックされている。

教祖は服から鍵の束を出すとその全てに鍵を刺し入れる。



ひとつ……またひとつ……。



電球の周りを飛ぶ羽虫が電球にぶつかり、じゅ、っという音が微かに聞こえる中、鍵と穴が擦れ合う音が響く。

穴の全てに鍵を刺し終えた教祖は一息の呼吸の後に口を開く。



「天に召します我らが神よ。我は代弁者。我が言葉はあなたのもの。

我が行いはあなたのもの。我に今日も予言を与え賜え」



教祖の高くも低くも無いがよく通る声がコンクリートの壁に反射し、消える。



『声紋照合完了。パスワード認証。ロック解除』



無機質な音。『あいうえお』の単純な棒読みを組み合わせた抑揚の無い機械音声。

神聖な神を奉る奇跡の宗教団体には似つかわしくない。

モーターの駆動を伴う振動の響きと共に扉が開く。

扉の中心に描かれた太陽の輪の縁を彩る紅炎の軌跡を辿り上下左右に扉が開く。



「神の子達よ、もう下がっても良いぞ。明日に備えて養生せよ」



教祖は見張りにそう言うと踵を返す。



「ああ、明日に備えて養生してもらうぜ」



突然、白いローブが翻り、見張りの男は扉を越え中に入ろうとする教祖に飛び掛る。



「くっ、一体何の真似ですか!?」



教祖は驚いて見張りを引き剥がしにかかると男の力は弱く簡単に離れた。

いや、離れたというより力なく床に崩れたというべきか。

教祖が床に男を見ると、襲ってきた男は既に気絶している。理解できないとばかりの表情で彼がもう1人の見張りに眼を向ける。



「やぁ、教祖様。今日もお勤めご苦労様」



もう1人の白いローブの男の顔は被っているそれのせいでよく見えないが彼の声は酷く嫌味に聞こえた。



「い、いったい何だというのですか!?」



教祖の酷く上ずった声が滑稽だ。

ふてぶてしく出っ張った腹が可笑しく動くのがそれをさらに強調する。



「ああ、簡単なことさ。それ見たらわかるだろ?」



白いローブの見張りが先ほど教祖に掴みかかった男を指差す。

指に見えた黒いものが実は指ではなく銃口だということに教祖は気づいたかどうか。

教祖は青い顔でこちらに銃を向けた男の促すほうに恐る恐る眼をやる。



「なんという罪深いことを……」



掴みかかった男の白いローブに黒めいた色が徐々に広がっているのが分かる。

先ほどからやたらと手にまとわりつく生暖かいものが彼の血であると瞬時に理解し背筋が凍る。

改めて銃口を向けられていることが何を意味するか頭に浮かぶ。



「な、な、な、何が、あなたの、の、の、望みですか!?」



「そんなに怖がるなよ。いい歳して教祖様ってことで美味しい思いしてきたんだろ? 何、簡単なことさ」



これから自分がどういう眼に会うか、この裏の世界で生きている人間にはわかることだろう。

いや、"普通"の生活をしているヤツでもわかることか。

わかったところでどうなるでもないことだ。もっと堂々とその瞬間を待てばいいものを。

銃を向ける男は怯える教祖の胸倉を掴み、無理やり起こす。

教祖の手についた赤い血が床に滴り、男の白いローブに赤い斑点をつけるが男は気にした様子もなく部屋へと教祖を投げ込む。

教祖はまるでぬいぐるみのように軽く宙を飛び、部屋にあるいくつものハードカバーが入った本棚にぶつかり苦鳴を上げる。

ぶつかった時の衝撃で本が零れ落ち、床に散乱する。教団で使う教本だろうか。



「ほぅ、結構、いい部屋だな。やっぱここを作った金も寄付ってやつか? 裏金とかの」



「何を言っているのかさっぱりわかりません。

あなたは一体何だというのですか? そのような物騒な物を向けて」



教祖の問いかけが馬鹿らしいとばかりに男は肩で笑う。



「はっ、自覚無いんだな。それとも知っててそうやってられるのか? 

お前が一体これまでどんなことやってきたか」



男はそう言うと、教祖に紙の束を投げつける。

ばさっ、という音を立てて紙が宙を舞い辺りに散らばる。



「こ、こっこれは……」



教祖が紙に眼をやると、それは政治家の献金や各界の権力者とのやり取りを綴った裏帳簿の数々。



「まぁ、こんなのがあろうと無かろうと俺がここにいるってだけで十分だ」
 


男はそういうと白いローブのフードを拭い顔を顕にする。黒髪に短髪の男。



「――お、お、お前は……霜咲! 死神が一体、私になんのようだ!?」



「へぇ、俺の顔を知ってるってのは中々の通だな、あんた。ならわかってるだろ? てめぇの価値、教えに来たぜ」



霜咲と呼ばれた男は、銃を持たない手でフードの中をごそごそやるとタバコを取り出し火をつける。

すると、直ぐに紫煙の香りが部屋に広がる。



「い、いったい誰の差し金だ! 

私の値段なんてお前に決められるわけ無いだろうが。

大体私に手を出してみろ?

直ぐに私のコネでお前に日の目を浴びさせない、

いや……直ぐにでも海に沈んむことになるぞ」



教祖が凄んでみせる。

さっきのとぼけっぷりと怯えっぷりが演技であるかのような豹変具合で可笑しい。人は死に際になるとこうも開き直るものか。

まぁ、いつものことだから別に気にしたことじゃない。

この手の悪党は決まって悪あがきするものだ。

逆に今まさに死に直面して何一つ変わらないヤツのほうが霜咲にとっては理解し難いが。



「――いつまでもすっとぼけてればいいものを。

順に答えてやるのも義理ってやつだ。俺の雇い主はもうこの世にいねぇ」



「ん? どういうことだ……」



教祖が怪訝な顔で睨むが気にせず続ける。



「今残ってるのは金と契約だな。そいつがお前に値をつけて俺に殺れって依頼した。

当の本人は金策に困って保険をたらふくかけて死んでたな。

自分が死ぬことになってもお前を殺したかったなんて相当きてたんだろう。

お前が今までやった行いの成せる業ってやつだ」



「わ、私には身に覚えが無いことだ。

恨まれるなんてことは特に……ひっ!?」



霜咲が部屋にあった椅子を教祖に向けて蹴飛り飛ばすと、教祖に勢いよくぶつかったそれはばきっ、という音を上げて砕ける。

椅子が直撃した教祖の二重顎にぱっくりと切れ目が入りそこから血が滴る。



「痛いか? さっきから言ってるが俺がここにいるってことで十分だ。

お前が死ぬってことに変わりはねぇ。それが俺の仕事だ」



「ま、待ってくれ! 私の値段って一体いくらだ? 言ってくれないか? その倍……いや3倍出す! な? それで見逃してくれ」



教祖は顎を押さえながら血を零して哀願する。

いい歳の割りに眼が涙目だってことが霜咲の笑いを誘う。



「――1億」



「へっ? 今なんて……」



霜咲は、何も無い中空へと紫煙を吐き出しぼそっ、と言い、それが聞こえなかったかのように教祖が眼を開く。



「1億。それがてめぇの価値だ」



それを聞くと、教祖が肩を震わす。

最初は小刻みに、そして、次第に激しく揺らし声が響く。それは笑い声。

これでもかと言うぐらい可笑しいとばかりの馬鹿笑いが部屋に響く。



「1億!? 

たったそれだけの額が私の値段だって? 

わ、笑いが止まらない」



霜咲は教祖の笑いに眉を顰める。

大体この手の輩が何をいいたいか見当がつくが敢えて聞くとする。



「何がそんなに可笑しい? 気でも狂ったか?」



「はは、ははは……な、何がってそんな額の2倍や3倍……いや10倍の額だって私には出せる。

私にはその価値がある!

この国を裏で操っているのは私だ。

全てではないにしろ、この国を裏で牛耳っている連中に口添えするのはこの神の代弁者である私、"杉村秀平"だ。

私がいるからこそ今のこの国があるんだ。

政府も都市も企業! 

そんな私が一声かければその位の額簡単に集まるぞ? 

さらにお前がこれから成すどんなことをしても手に入らない金と地位を与えてもいい。

私直属の殺し屋にならないか? 霜咲廣威!!」



教祖は1人熱弁を振るう。

眼は金と権力欲が入り混じった狂気を帯び、この手の輩独特の危険な威厳がある。

誰しも彼の立場に裏打ちされた恫喝にも強要にも取れる権力者の言葉を聞けば頭を下げて従うしかない。

残念ながら霜咲もその例外ではないようだ。

教祖の台詞を聞き終わると煙草をふかしながらしばしの沈黙の後、口を開いた。



「へぇ、じゃあ金払ってもらおうか」



教祖は、霜咲の答えを聞くと、笑いが止まらないといわんばかりに体を大にして笑う。



「ふははは、お前はものわかりがいい! 

それでこそ人間だ。力無き愚民は、我ら力有る権力者である神の前にひれ伏せばいい!

いくら欲しい? 2億か、3億か……10億か? ん?」



教祖はもはや零れる笑いを止めようとせずに本棚を頼りに起き上がり、彼の机に向かう。

そして、引き出しから小切手を出し、巨大なダイヤが埋め込まれた万年筆で右手に持つと器用に回し始める。



「うーん、そうだな……」



霜咲は煙草をふかしながら頭を掻きながら、教祖に近づく。



「おっと、それ以上動くんじゃない! 私はまだお前を信用しておらん! その手に持っている銃を捨てろ!」



「ん? ああ、こりゃ悪い。忘れてた。どうも癖でな。相手に向けてることが当たり前だからな」



霜咲は悪びれた様子も無く銃をくるくる回すと教祖に放り投げる。

一瞬、教祖はびくっとするが銃に安全装置がかかっているのを確認するとほっとした顔で霜咲を睨む。



「おいおい、いきなり危ないじゃないか。で、いくら欲しいんだ?」




「何、はした金さ。あんたにとってはな」



霜咲が一歩近づく。



「おい! 止まれ! 私はまだお前を信用していない! 止まるんだ!」



教祖がさっき霜咲に投げられた銃を握る。勿論、安全装置を外して。



「教祖様、そんなに怯えることないだろ? 俺が欲しいものをあんたに言うだけだ。何、ここからじゃ遠いだろ?

俺のこと信用ならないってのは分かるが、俺もあんたが信用なら無い。

先に俺が譲歩して銃を渡してやったんだ、俺が近づくのは別にいいじゃないか? 

少しでも怪しいと思えばそれで撃てばいい。それだけだろ?」



教祖は、馬鹿なのかあっさりと信用してしまう。

裏の業界での"金の死神"と呼ばれた霜咲に対して下手なことをやれば殺されると知っているからかもしれない。

それだけ霜咲はやっかいな相手なのだろう。

息を詰めた教祖が荒い呼吸の中、瞬きをし、ふと眼を離したとき霜咲が目の前から消えていた。

教祖は、血の気が引き、全身が総毛立つのを感じた。



「最初に言ったろ? 教祖様。俺が欲しいのは……」



教祖は感じた。自分の後頭部、特に首の付け根の上付近、延髄の位置が酷く圧迫されるのを。万力で締め上げるかのように痛みが走る。

あまりの激痛に歯を食いしばり抵抗する。



「――あんたの命さ」



霜咲が少し感慨深げなニュアンスで核心を言う。初めからわかっていたことだが、改めて言われると再び恐怖がこみ上げる。

先ほどまで金で動くと思っていた人間が今まさに自分を殺そうとしていることに教祖は必死で抵抗しようとするが体が動かない。

極度の緊張に寄るものか。これが蛇に睨まれた蛙と言うやつか、口が何度も金魚のようにぱくぱく、と痙攣するが声にならない。



「どうだ? 教祖様。

助かると思った矢先に再び殺されるってのは? 

我慢ぎりぎりまで水中で息を止めていた後に顔を出して呼吸できるって思ったときに頭を水ん中に叩き入れられるみたいで苦しいだろう? 

人間、上げて下ろされると悲しいもんだ。

特に生死が絡んだ時なんて最低な気分だろ?」



霜咲が教祖の銃を持つ手ごと掴み、銃口を教祖の口の中につっこむ。



「なぁ、教祖様。さっきから銃を撃ちたがってるようだが、人間緊張が過ぎると思うように体が動かなくなるもんだ。

なんて現象か忘れたが、緊張が緩むと大丈夫らしいぞ。試してみるか?」 



教祖が涙目で首を振ろうとし、口をもごもご、と動かそうとするがやはり痙攣が酷く動かない。

教祖が言いたいことの代わりに霜咲が続ける。



「ふぅ……金で払えばなんとかなるって思ってるてめぇらなんかに生きる価値なんてあると思ってるのか? 

俺が金で動くのはあくまで俺の価値観だ。

例え、お前ら標的が依頼額の何倍金積もうとな、俺には興味無ぇ」



霜咲は、ふぅ、と紫煙を吐き出す。



「――てめぇらみたいな人間のクズのため金払ってくれるヤツに感謝しな」



ぱんっ、と軽い音が部屋に響く。銃撃音ではなく、銃が暴発した音。

教祖が銃を撃とうが撃たまいがいずれこうなること。

もしも、彼が銃を撃っていたなら暴発するように霜咲は細工していたのでもっと寿命が短かっただろう。

教祖のやたらとごてごてした悪趣味な衣装の上、月と太陽のごてごてしたデザインの頭飾りを乗せた頭はもはや無い。

白いどろどろとした脳漿と頭部を形成していた紅い肉片が入り混じったものが辺りにこびりつく。

霜咲は、それがべっとり、とついたもう白くないローブを脱ぎ捨て、懐から金のきめ細かいラインの入った懐中時計を出す。



「ちっ、無駄口が過ぎたか。

どうせ死ぬヤツに何話しても意味無いが……殺す側の義務だからな」



霜咲は根元まで煙草を吸うと床に投げ捨てた。



それに合わせるようにこつ、と何かが擦れる音がした。



「――まだ何かいるようだな」



霜咲は懐から煙草を出すと面白くもなさそうに火をつけた。

  To be continued……
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