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情報の真偽は自己責任☆
2005年11月07日 (月)
い服装の裾まで長い服を着た人が多数居る。

ローブというものかファンタジー世界でよく魔法使いや司祭なんかが着ているローブといった類のもの。それを頭から被った何百人もの人がいくつもの照明で様々な色で照らされたスモークがもうもう、と漂う。

一見、ディスコスペースのようだが天井は高く、部屋は広い。
アロマの一種か甘くとろみを帯びた柔らかい香りで満たされ現実から一脱する夢へと誘うかのような不思議な熱気に包まれている。

人々はスペースの中央ステージ辺りで大げさなアクションで演説をする禿頭の中年に憧れと畏怖の眼差しを贈る。これ見よがしに金と宝石の豪華な装飾を施した司祭服に身を包み権威を見せ付けているかのようだ。



『―――――みなさん、神の愛は無限なのです。


 今あなた達が今のような状況にあるのは神とその子である私達を陥れようとする悪


魔のせいなのです!』





場内に司祭の言葉がこだまする。信者であろう白ローブ達は頷いたり、その通りだと口にする。


俺こと"霜咲廣威"はうんざり顔でその群集の中に居る。

仕事とはいえこんな悪ノリした連中と一緒にいるのは勘弁だ。
何が楽しくてこんな世迷言を聞かなければならないのか。他人が何を信じて何を心の支えにするのか文句を言う義理は無いが俺からすれば馬鹿げてる。





【神様に頼らないと自分のやることも決められない】




こんなの誰かに命令されて動く機械となんら変わりない。俺は自分が人間だと思ってる。何が正しくて、何が悪いのか。何に腹を立てて、何が嬉しいのか。"世間の基準"からずれているかもしれない。


でも、俺は"俺の基準"を持って生きている。自分が自分であると誇れるように。



『―――――それでは長くなりましたが、教祖様のご登場です』



禿頭の司祭は手で合図を送り、一歩後ろに下がる。彼の手が指し示す辺りにスポットが当たる。濃いスモークの中から人影が顕になり像を結ぶ。

月と太陽を象ったルネッサンス時代の絵画をそのまま冠にしたような造形を頭に乗せ、金や銀、数多の光を放つ無数の宝石を白いローブのあちこちに埋め込んだ豪華な井出達の男。

写真で見たうろ覚えの記憶の通り、ふてぶてしく太った二重顎の悪趣味な下衆な印象を与えてくれる。これの何処が教祖なんだか。
もっと馬鹿らしく顎髭でも伸ばしていればいいのだが、あいにくコイツはちょび髭だ。

今回の標的、この宗教団体の教祖だ。



今回の仕事は【この教祖を殺ること】



この仕事をよこした仲介屋の"佐奈"の説明はあまり当てにならないから毎度彼女からの仕事の標的の情報は自分で調べることにしている。

一度彼女の言う情報をあてにして死にかけたことがあった。

今の仕事を始めてからもう随分になるが本気で死にかけたのはのあの時限り。
今でも時折夢に出てくる悪夢のような仕事だった。



で、今回の俺に仕事の相手というのは今注目の教祖様だ。
ありがたい彼が言うには



【神の愛は無限です。


 人は幸せになるべきなのです。



 そのためには慈愛の心を持って隣人を愛しなさい。



 例え、肉親を殺した罪人でさえ愛を持って接しなさい。


 
 さすればその真心が伝わり改心するでしょう。



 憎しみからは何も生まれません。



 人や物を愛することが人が幸せに生きるための本願です。



 私は神より使わされた現人神。



 いわば神の子であり、神の化身。



 神の神聖な言葉を代弁する預言者。



 しかし、私は神である一方、皆さんと同じ人間でもあります。



 あなた達の苦しみや悲しみ、妬みや憎悪、
激しい負の感情を受け、四肢が千切れ飛びそうになることも多々。



 神は悲しんでいらっしゃいます。



 私の言葉は神が申されることと全く同義。



 神の御心の赴くままに私の口は言葉を紡ぎ、
私が視たもの、聞いたもの、感じたものはそのまま神がそうなさいます。



 あなた達の行いは私を通して神が知覚なさいます。



 あなた方の行いに応じてあなた方の生を祝福します。



 哀れな子羊達の進む道に幸多からんことを―――――】
 
そんな何処の宗教家や夢想家が言うような極ありふれたことをテレビやマスコミやこの会場で演説する。

使い古された苔の生えたベタな話でもコイツが書く本は何処にでもいるだろうコイツの信者のおかげでベストセラー。

最初は信者による『サクラ』のおかげで人気があるように見せかけ、"宣伝"することで知名度を挙げ、何も知らないパンピーが【ネタ目的】や【流行に乗り遅れる】の嫌って本を買ったり、はやし立てたりと担ぎ上げるものだからそれがさらに"宣伝"になって知名度を上げる。

知名度が上がるとまた知らない人が……と連鎖していき"世間の常識の存在"になる。



【中身の無いとるに足らない虚像でも世間が囃せば実像となる】



まさにこの言葉の通り、特に何の変哲もない宗教団体の教祖は今やこの国では"知らない人は少数派"と言うレッテルを張られかねない"世間の常識"だ。

最初はネタ目的だった人も信者やたまたま教祖の言っていることを実践して幸せになれたラッキーマン達が周りで騒げばそれが正しいと思い始める。

例え、ネタ目的で教祖がインチキ臭いと勘ぐっていたとしても周りが『正しい』と言って教祖を正当化すればするほど自分が正しいのか疑うようになる。

どっかの哲学者か研究者が言っていた定理にあったが周りから否定され続ければ



【黒いものも白かもしれないと疑うようになる】



まさに、その通り。この教祖はそれの体現といって良い例だ。


【有名=えらいorすごい】の方程式の名の下に人気が人気を呼んで信者の数は計り知れない。

彼を妄信する信者はパンピーだけには留まらず、政治家や各界の権力者との黒い関係
も手伝って裏の世界でもかなり顔が利く。何かあれば彼らは自分達の行うことについてどうしたらいいかこの教祖に占ってもらうほど。

何の霊感も無い(?)教祖に高い金払って占ってもらったところで彼らの素晴らしい未来が水晶玉やらタロット映ることはないだろうが世の中はよく出来ている。

これだけ有名で各界に信者を持つ教祖様なら思い通りに彼らの未来を素晴らしいものに出来る。過疎地に道が欲しければその手の政治家や土建集団に金を包み、選挙で勝ちたければ、信者を使って投票させ、彼らの身内が犯罪を起こしたならば警察の重役に一声かけるなり圧力をかけるなりしてうやむやにもみ消してしまえば良い。


教祖にお願い(お布施を払う)すれば素晴らしい未来が待っているというのは本当だろう。



【金を払った分だけ幸せにしてくれる】



表では良い面をして慈愛慈善を謡っているが一枚捲って腹の中を見ればこんなもの。


未来予知などの予言の霊能力なんて本当にあるか怪しいシックスセンスに頼らなくてもそんな力はもっと現実的に手に入る。



【金と広告】



これで思い通りの展開に持っていける。【あたかも予言しているかのように】馬鹿馬鹿しい権力者の独りよがり妄想もパンピーの夢や幸せも叶えてやれる。

『あなたはこうすれば幸せになる』と適当なことを言ってそれをしたらそうなるよ
うに周囲に根を回し、圧力かける。信者がそうしたら本当に物事が上手くいくように。あたかも予言の通り幸せになったように演じる。


"『サクラ』の環境版"だと思えば良い。


普通、『サクラ』はインチキ業者が"見かけ上"商売が上手くいっているように見せるための模範的客だ。怪しい品でも大枚はたいて買ってくれるし、カジノで大当たりを連発してぼろ儲けできるよう演じ、パンピーにも【もしかして俺が買えば(やれば)いいことあるんじゃないか?】という気を起こさせる存在。それが『サクラ』だ。

教祖が使っている手口はその『サクラ』が人一人か二人程度のものではなく、数十人もしくは数グループの企業、いや一つの都市といったらいいかとにかく巨大なものだ。

これがグルになってパンピーを"幸せ"にしてくれるのだからまさに"予言"通り、教祖は超能力を持っている偉大な存在だと思うのは当然だ。

騙されているとも知れず。予言が何でも実現してしまう教祖様が『神の愛をより皆に広めるために教団にささやかな寄付を!』と言えばしない信者がいるはずは無い。

"予言"のタネを知っている権力者も何も知らずに妄信する信者も喜んでお布施を払うだろう。金だろうと、家であろうと、土地であろうと、人であろうと……教祖が望むもの全て渡すはずだ。



【恋は盲目】



とはよく言ったもの教祖の"力"に恋した信者達は周りが見えなくなる。

何が正しく、何が悪いのか。自分が持つ価値観で行動しているのだろうが、教祖様のありがたい"教え"による価値観の強要に気づかず、受け入れる。

そして、それが正しいと胸に信じて行動する。例え、傍から見れば狂気や奇行としか思えないことでも彼ら狂信者にとっては"聖行"だ。

自爆テロなんてのはまさにそのいい例だ。
普通の人から見れば【大切な命をそんな風に使うなんて馬鹿げている】なんて上辺で固めて内心は【人のために死んで何になる?】とドライな感情を持つ。

俺も大同小異でそれに賛成。

歴史に名前を刻んでも大切な人を守ったとしてもその場限り。
【誰かが覚えてくれればいい】【大切な人やものを守りたい】なんて言う輩も居るがそれは各々の自己満足。結果として残るのはその"一時の素晴らしい思い出"として何かを残す程度。当事者達もいずれ記憶の片隅へと風化させる虚しい記憶だけだ。

『それでもかまわない』という輩はもう勝手にやってくれ。俺はそういうのはちょっとわからないので勘弁。人のために死にたいやつは勝手に死んでくれ。俺は特に止めないし、その権利も義務も無いし義理も無い。

結局、狂信者も熱愛者も崇拝するものは違うにしても何かを守りたいということは変わらないのか。

どっちが正しいか、なんてのは当事者の価値観でしか判断のつけようが無い。
どっちも彼らの色眼鏡ごしに見た世界が真実。相手が見ている世界は、相手の色眼鏡ごしじゃないとその真価が分からない。

だから、一方的に正しいと決めることは出来ない。まぁ、俺は人のために死ぬってのは馬鹿げてると思うが。

教祖のクソ長ったらしい演説が続く中、そんなことを考えながら聞いていた。

どこぞの三文小説でも読んでいたほうがマシな偽善と利己が見え隠れするつまらない単語の羅列。

結局ここにいる信者連中は自分で自分の行く末も決められない、誰かにやることを決めてもらいたいヤツばかり。




「命令(指示)待ちのヤツなんて人間って言えるのか?」




俺は無意識に呟き、怪しいエキゾチック系トランスが混じるBGMの中、クソつまらない演説を聞く。幻覚催眠効果のありそうなアロマの香りと睡魔に意識が時々負けそうになりながら懐から煙草を出す。


そうしようと思ったが生憎、白ローブに着替えた時に忘れてきたようだ。




「意思の無いやつなんて機械や犬っころと同じだろ」



俺は苛立ちで舌打ちした。



  To be continued……
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