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情報の真偽は自己責任☆
2005年10月18日 (火)
No.01-2 起章【The price of a life】

狭く、汚く、薄暗い場所。
世間の死角とも言える建造物の群れの隙間を縫うように走る路地裏。
屋根と屋根、壁と壁の間より漏れる光を頼りとしているため、青みを帯びた波長の長い光で彩られている。

唯でさえ暗いそこは夜のためか青色よりも黒色に近い色が濃い。

そんな中、青色に染まった壁のあちこちに濃黒の染みが目立つ袋小路に動く影が二つ。

申し訳程度に立てられた路地裏の灯火が薄っすら灯りを作るが闇に溶け込み、影の詳しい細部は伺えない。

黒のシルエット二つが動き、言葉を紡ぐ。


「じゃあ、これ今回の報酬」


若いやや高めの女の声をさせながら、腰辺りで揺れる長い髪のシルエットが手に持ったトランクを短髪のシルエットに渡す。

短髪のシルエットはそれを受け取ると、開き、中身を確認する動きを見せる。
それがしばらく続く。



「ああ、たしかに約束の金だな。毎度、お前は気前良くていいぜ」



若いやや低めの男の声をさせながら、確認の動きを止めトランクを閉める。



「褒めても何も出なよ? じゃあ、続いて……」



女はそういうと一枚の紙切れのシルエットを取り出し、男に渡す。
ここからは暗くてよく見えないが男はその紙切れを手に取ったそれをじっと見つめる。



「次はこいつをヤればいいんだな」



男は、懐をごそごそ、とやると高い石がこすれる音と共に火が上がる。ジッポライターで煙草に火をつけたのだろう。
不完全燃焼の赤色と煙の白さが混じり、再びライターを点火させ、先ほど渡された紙切れ――写真に火をつけると、赤とオレンジの炎を上げながら地面に落ちる。
その周囲が炎で照らされ辺りを明るくするが時期に燃え尽きまた暗くなる。



「何も聞かないのね」



女が面白そうに尋ねる。



「別に興味ないからな」



男がぶっきらぼうに答える。



「ヤる相手のことを知りたくないの?」



女が再び興味を含めた口調で聞く。


「別に。


 すぐ俺にヤられていなくなるような相手のこと知るなんて時間の無駄だ。


 依頼の標的になる以上まともなヤツはいないだろ」


そう男は答えると煙草を一含みし、火でほんのり赤色の煙が漂う。



「それもそうね。

 まぁ、円滑に仕事やってもらいたいから触りだけでも。

 最近、有名になってきた新興宗教の司祭で、とある身分の人が邪魔だからって。

 じゃあ、後はまかせたから」



そう女は言うと、腰まで長い髪のシルエットは袋小路を跡にする。

彼女が去って少し経った後、短髪の男は煙草の吸殻を地面に吐き捨てると靴底で踏み消しその場を後にした。






――――――




俺は、新たな仕事が入ったことでそれの準備でしばらくの間、路地裏で雑務をこなしていた。

今度の標的も、権力の元で踏ん反り返った二重顎の中年。

うろ覚えの記憶では、頭に月や太陽を象ったような髪飾りをつけ、怪しい白地に細かな金銀の装飾をつけたデザインの悪趣味なヤツだった気がした。
【宗教に入っているやつにろくなもんはいない】ってのが俺の持論だが、潜入してからそれについては考えるとするか。

まぁ、場合によってはことを成すために宗教も捨てがたい"方法"の一つだが。

路地裏を歩いていると、ふと無造作に置かれたガラクタの山が目に付いた。
生ゴミや壊れたテレビや冷蔵庫などの粗大ゴミや不法投棄の疑いがあるゴミの山。
入り乱れ、積み重なったゴミの中にやわらかい有機物が顔を見せている気がした。



――人の死体



よく見ると、さっき俺が金をくれてやった少女じゃないか。

"売り"目的で日銭ならぬ食費を稼ごうと俺に声をかけてきたところ、俺はめんどくさいので金だけ持たせて立ち去らせた。

大金が渡されたことが信じられないとの表情で何度も俺の方を見ていた。

その少女が、ぼろぼろの衣服をさらにぼろぼろのところどころ破け、
まだ未発達の胸や細い太腿の一部が顕になった姿でまるで壊れた人形のように手足をありえない方向に曲げて埋もれている。
生気は全く感じられる人ではなく"物"。血の温もりも弾力もその他何もかも感じられないたくさんのゴミと同じオブジェクト。

どうして少女こんな目にあったのか考えてみる。
色々、考えてみたがきっと強盗にあったんだろう。
俺がほんの気まぐれで金をやったのを誰が見ていたのだろう。
それが原因で強盗にあったのかもしれない。または、"売り"中に殺られたか……?

そんなことを【文字通りゴミを見るような眼】で煙草を吹かしながら軽く脳裏に浮かべた。



「ちょっと、兄ちゃんいいかな?」



突然、中年のヒヒみたいな顔をした男が俺に声をかける。そいつは俺の返事を待たず、ゴミ箱に近づき、
少女をひょいっ、と拾い上げる。



「こういった鮮度の良い死体はやっぱここがいい」



中年は、いやらしい欲にまみれた面で少女を彼女のサイズより少し大きめの袋の中に入れる。

こういった輩はここじゃあまり珍しくない。


様々な生き物の死体の一部分や全身を剥製として手元に置く【死体愛好家】か、
新鮮な死体をバラして服や皮、眼や内臓……etcのパーツとして売る【死体分売屋】か……

中年は、手馴れた手つきで仕事を終えると、俺に向かってこういった。



「兄ちゃん、事後承諾で悪いがこれ代金な」



中年は、少女入りの袋を運ぶ手とは逆の手で俺に数枚の紙切れを押し付けるとそそくさと遠くへと消えた。


俺は、手に握らされた紙切れは数枚の札。



――福沢諭吉が2枚



死体にすら価値がつく場所、それが路地裏だ。


いや、この世で値がつけられないものはないといったほうが正しいか。


例え、何処へ行っても――



俺は2枚の札をくしゃっ、と上着のポケットに突っ込んで煙草を吹かした。

  To be continued……
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